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ルイヴィトンヴェルニポシェット編集

 それを岸田に報告すると、 「だったらしょうがねえな。これにて終了だな」  真贋《しんがん》の探究をとうとう諦《あきら》めてしまった。  ……けれど、あの言葉。 〈ねえねえ、あの博物館にはさ、すごい秘密があるんですって? 世間が知ったら、ひっくりかえるような秘密。——五十嵐さんがそう言ってたよ〉  病院からの帰りぎわに、患者らしき少女が口にした奇妙な言葉。——世間がおどろくような秘密っていったい何だろう、と遥子はあれからずっと気になっている。  例の狛犬が贋作だということを意味しているのかとも考えたが、そんなことで世間はひっくりかえりはしない。何かもっと他のことだろう。 〈いまの館員はほとんど知らないんだってさ、古い話だから〉  ……何だろう。  しかしそれは、精神障害者である五十嵐潤吉の妄想かもしれない。  あるいは、あの少女自身の妄想なのかもしれない。  思いつつ、遥子は橋本直美に訊《き》いてみた。——自分と同い歳の彼女がそんな〈古い秘密〉を知っているはずはないのだけれど。 「ねえ直美さん、あなたこの都博に、何かすごい秘密が隠されてるっていう話、耳にしたことある?」 「秘密? どんな?」  鏡磨きの手を止めて遥子をみた。 「具体的には判らないんだけど、世間が知ったら、びっくりするような秘密」  そんなの聞いたことない、という答えを予想していた遥子に、 「……それって、ひょっとして地下室のこと?」
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