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ルイヴィトンダミエアズールコピー編集

「だから、読んでごらんなさいよ。それが妙なんだから」 「妙?」 「男なのか女なのか、若いのか年寄りなのか、うぶなのか訳知りなのか、まるで頓珍漢《とんちんかん》なのよ。カタカナで書いてトン・チン・カーンって感じ」 「ほう」 「だからね、今日早速読んで、明日行って来なさい。どんな相手か、分かるから」  こともなげにいう。 「ちょっと待って下さいよ。行くって、この千秋さんとこですか。そんないきなり」 「だって岡部君、明日は川島《かわしま》先生の原稿|貰《もら》って来ちゃったら、後空いてるでしょ」 「それにしたって、男か女かぐらい、まずは電話で——」 「電話が書いてないのよ。番号案内で聞いても分からないの。世田谷《せたがや》だからさ、岡部君なら帰り道になるでしょ」これでけりがついた、というように行きかけて、また振り向き、「校正が上がってきてるから、見ながら電話番しててよね。皆《みん》な出ちゃってるから、わたし、しばらく動けなかったんだ。そうそう、岡部君も改名して主水正《もんどのしょう》とでもしてみたら、きっと似合うわよ」  今の良介《りょうすけ》で結構だ。        2  それにしても、送られてきた原稿にこんなに早く対応するというのも異例である。  夕方はあれこれ忙しく、食事も作家先生のお相手をしながらだったので、取り紛れて忘れていた。帰りの電車でうまく座れたところで千秋サンのことを思い出し、早速|膝《ひざ》の上に封筒を出してみた。宛名は万年筆で書かれた骨太の文字、どう見ても男の|手跡《て》である。原稿の方はワープロ、これは読みやすくて助かる。  目を通してみると、なるほど面白かった。着想といい展開といい、非凡である。先輩が脈があると思った気持ちはよく分かる。ただ、ところどころ確かに妙なのである。テレホンカードというものが何なのか分かっていなかったり、突然世にも難しい言葉が出てきたり、取って付けたような手順(!)のおかしなベッドシーンがあったりする。 「何だ、こいつは」
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